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放送と通信と日常と
by tkt33
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8月8日

檻からは道路が見える。車はたまに通る。
聞こえるのは風の音、虫の声、鳥の声。一日がとてもゆっくり流れていく。
日が昇っては沈み、昇っては沈む。
雨が降っては止み、降っては止む。風が吹く。雪が降る。
また、次の1年が来る。
小屋の横でじっと座って、明日を待つ。

19の時の夏休みに、じいさんの家で飼っていた犬が死んだ。
もう13歳で、老衰で病気にでもなっていたんだろう。
小屋の横でぐったりしているという話を聞かされて、
みんな、もう駄目だろうと諦めていた。
話を聞いて数日後に、犬を見にひとりでじいさんの家に行った。
いつもなら車から降りるとそいつの鳴き声がして、小屋に近づいたら駆け寄ってくるのに、その日はそれも無かった。
小屋の横に臥していて、こっちを見てはいるんだけど動こうとはしなかった。
撫でてやっても、いつも通りに手の匂いをかいで、頭を寄せてきてなんてこともない。
とにかく全然動かなくて、もう、駄目なんだと思った。

飼い始めたのは小学生の頃だった。
じいさんの家のあたりは、家が数件ある以外は見渡す限り牧草地なんて程の田舎で、遊びに行く機会は親戚が集まる時以外にほとんどなかった。
ただ、集まってくると少しはにぎやかになって、中には同じくらいの年のやつもいる。
酒も飲めないし、話に混ざっても面白くない子供の俺たちは、外で日が暮れるまで犬と遊ぶくらいしかすることがなかった。
遊び盛りの子犬に飛びつかれては、どいつもこいつもしょっちゅう泣かされてたもんだ。

犬は人間の7倍の速さで歳をとるなんてのもよく聞く話で、子犬も例にもれずすぐにでかくなった。
初めて遊んだ時には自分の半分くらいの大きさだった奴が、次の時は自分と同じ大きさで、その次の時は自分よりも随分でかくなっていた。
抜かれるのは一瞬だったけど、抜き返すまではなかなか時間がかかったもんだ。
そのうち俺も大きくなって、「せっかく来たんだしかまってやるか」、なんて考えるようにもなった。

動かない犬をしばらく撫でているうちに、日が暮れてきた。
いつまでもそうしていても仕方が無いし、帰ることにして立ち上がった時だった。
手を放すと、犬が動いた。
動かない後ろ足を引きずりながら、それでも前足だけで、必死に、俺に近づいて来た。どうすることもできなかった。
車を運転して家まで帰る間、何も考えられなかった。
俺の行った日の夜に死んだと聞かされたのは、数日たってからだった。
「あいつは、お前が来るのを待ってたんだろうなあ。」冗談半分かは知らないが、その時じいさんが言った言葉だ。

目の前で消える命。
何もしてやれない自分と、その言葉を、今も忘れない。
by tkt33 | 2004-08-09 17:52 | 序文
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